31.彷徨  


 夜明けを忘れ、長い夜を彷徨う。

 いくさの炎は、消えた筈なのに。


 

 ‥‥‥『彼』は魔道書を手に辺りを見回した。


 どこを見ても、『人の形をした炭』としか呼べぬ代物が転がっており、絶えず何かの焼け焦げる様な臭いが鼻をついて、胸が悪くなる。
 否、彼ははまだ良い方だろう。戦に慣れぬ新米兵士などであった日には、さぞかし酷い嘔吐感に襲われたに違いない。戦場とはそういうものだ、と言い切る事は出来ない。彼が目にしてきた中でも、それは最悪な部類に入る景色だった。

 業火に包まれ、今は煙のくすぶる戦場。能力の高い術者の放つ炎魔法であれば、相手は遺体すら残さず灰になり、燃え尽きてしまう。とはいえ、それ程の魔力を有する者は、男の所属する、ヴェルトマ−騎士団ロートリッタ−の中でもそう多く無い。従って、今現在、彼の目の前には前述した様な光景が広がる事となった。
 勝敗は決したとはいえ、残兵狩りの中で、気を抜いてはいけない。そう思いながら、彼は魔道書を持つ手に力を込めた。
 屍の累々と横たわる荒野を歩きながら、なおも鼻をつく異臭は男の気分を下降させている。


 反逆者達との戦いは、随分と長い時間がかかった様に思えたものだ。実際は通常の戦などより遥かに早く決着がついたと言う事は、よくわかっていたのだが。

 今現在、彼の周囲では全てが順調に運んでいた。大きな事では、国内の憂いとなっていた『賊』が一掃され、宮廷では、長期行方が知れなかった、王子クルトの娘、つまり皇女にあたる姫が、つい最近見つかったのである。それは、病気がちであった現国王の血を引く者が見つかった、というだけではない。彼女の夫となっていたのは、ヴェルトマ−の現当主、王の信頼厚く極めて有能な青年であったアルヴィス卿、ヴェルトマ−家に仕える彼にとっては主人にあたる若者である。
 誰もがその青年の才覚を認めている。クルト王子を失ったとはいえ、アルヴィス卿であればそれにも劣らぬ人物だ。憂える事はない。
 そしてこちらはごく些事ではあるが、当然、先の戦で功績を挙げた彼にもそれなりの処遇がなされる筈なのだった。そうなれば、老いた両親を含め、家族との暮らしにも余裕ができる様になる。今の所、彼にとっても祖国にとっても、何もかもが上手く行っているのだ。
 ‥‥‥その筈だ。


 どうも、落ち着かない気分だった。
 不安にも似た、奇妙な感覚が頭にちらついて離れない。何一つ憂えるべき事などない時だというのに、一体何が心中を悩ませると言うのだろう。戦場にいるからという、その緊張感ともどこか違っているのだ。

 ‥‥‥‥気のせいだ。
 心中にわだかまるものを振払うかの様に、彼は頭を一つ振った。
 単なる気のせいに違いない。何も、不安に思う事など無いのだ。戦の後の、些細な感傷の様なものだろう。
 今日は体調が悪いという事にして、早く引き上げよう。自分一人いなくとも、事後処理は出来る筈だ。さっさとこんな場所を離れてしまえばいい。そうすれば、気も晴れるに違いない‥‥‥。
 ふと、足元を見た。既視感に似た感覚と同時に、何故か振り向かずにはいられない思いにかられたせいだ。

 弓が落ちていた。


 目に飛び込んで来たのは、薄らと青い輝きを放つ、精緻な白金細工の施された美しい弓だった。彼は、それを目にした事があった。『勇者の弓』と呼ばれ、ユングヴィのバイゲリッター達が自らの誇りとして手にしているものである。だが、バイゲリッターは今回の戦に参加してはいない。
 確か、以前ユングヴィのアンドレイ卿が反逆者の討伐に向かった際に、返り討ちにあい、多くが討ち死にしていた筈であった。その為に、今回の戦に向けるだけの戦力が整わない、という話の筈だ。
 腑甲斐ない事だ。皮肉っぽくそんな事を考えながら、何故、このような名弓がこんな所に放置されているのだろうと、怪訝に思い首を傾げた。
 何故だろう。戦の最中、どこかでこの弓を見かけた気がする。
 ‥‥‥誰が持っていたものだろうか?
 やや考え込んだが、どうしてもその弓の持ち主を思い出す事は出来なかった。しかし、先程の既視感はおそらくこの弓だろう。
 彼は弓を拾い上げた。誰の持ち物で、何故こんな所にあるかは知らないが、『勇者の弓』ともなればよほどの逸品である筈で、たとえ弓使いでなくとも、戦場に捨て置くにはあまりにも惜しい。
 おそらく、この辺りにはもう生き残った敵兵などはいないだろう。薄青い弓を手にそう考えながら、引き返す際に彼は何気なく視線を動かした。と、もう一つ、今とは別に、弓が打ち捨てられている事に気付いた。否、「弓であったもの」と呼ぶべきか、それは弦を切られた弓の残骸だった。
 ‥‥‥瞬間。
 戦慄が走った。


 先程の勇者の弓と較べれば、地味としか言い様のない代物だった。色は暗褐色で、その弓身に、一切の装飾は施されていない。既に切れてしまっている弦はしかし、細いが強靱そうで、一見すると針金の様でもあった。冷ややかな照り返しを見せる照準器が鋭く、冷たい印象を与える弓だ。ひどく軽い。だが、そのせいでかえって扱いにくそうでもある。驚くのは、弦の端のある位置からみて、この弓は張り詰めた時に逆に反るのだと分かった事だった。
 男は慄然としながら暗褐色の弓を眺めた。怯えた様に、その場に立ち尽くす。否、恐ろさを感じたのは弓そのものに対してではない。
 問題は、その持ち主だった。その姿を思い出すと同時に、先程見つけた『勇者の弓』の持ち主にも思い当たった。同じ人物であったのだ。 
 ‥‥‥敵味方入り乱れての激しい交戦の最中、彼は「死神」を見た。


 死神。それとも、手負いの、それも飢えた獣と呼ぶべきだろうか。
 初めのうちは手にした弓から放った矢でもって、彼の同僚達を次々と射抜いていった青年。腕を焼かれるのにも構わず、矢が尽きてからもその弓を手放そうとはせず、何人もをその手にかけた青年。満身創痍になりながら、決して諦めようとはしなかった青年。
 猛獣を相手に戦っているかの様な思いを味わった。満身創痍のたった一人に、何人もの味方が返り討ちにあった。
 青年に関して人間らしさを感じさせたものと言えば、その発した、僅かな言葉だけだった。

 『退け。』


 ‥‥‥自分の子供を殺された虎であったならば、あんな憎悪を人に対して抱くだろうか。手負いの狼であったならば、危機にあるとき、必死の覚悟で人を威圧し、あの様に生き延びたいと願うのだろうか。
 褐色の髪に、深く澄んだ褐色の瞳。「反逆者」の一味である筈の青年が、自身を微塵も疑っていない様なその姿を見て、彼はむしろ間違っているのは自分達なのではないかと、そんな思いすら感じた。
 浮かんだ戸惑いを振り切ろうと放った彼の炎が、また、左腕を焼いた。その時に、青年はこの弓を取り落としたのである。

 「鬼気」と言う以外表現のしようがない雰囲気を纏っていた青年を、彼は戦いの終わった後も、しばらく悪夢に見る事になる。


 男はもう一度周囲を見回した。「弓」の持ち主の遺体を探したのだ。
 ‥‥‥見つからなかった。

 あたりには、黒焦げの死体が幾つも転がっている。無論、ほとんどが身元の判別など不可能な状態だった。それらの中に混じっていてわからないのだとしても何ら不思議はないし、その方がむしろ当然だった。
 だが、彼は「獣」の死が確認出来ない事で、ひどい不安にかられた。どの遺体を見ても、あの青年のものではない様に思えてしまう。
 死神がすぐ側にいるのではないかと、そんな思いが頭を離れないのである。勿論、生きているとしても既にこの場所にいる筈がない。すぐにこの戦場を立ち去るだろう。だが、それでも不安だった。


 彼は、また頭を一つ振った。
 ‥‥‥生きている筈が、ない。

 青年が息絶える所を、彼は目にした訳ではない。一度は包囲したものの、攻めあぐねる内に再び乱戦になり、それどころでは無くなってしまったのだ。
 だが、あの戦火の中で生き延びている筈はない‥‥‥。


 何故か、何もせずその場を立ち去る気にはなれず、彼は地面から暗褐色の弓も拾い上げた。その、握りの部分に目をやる。反った弓身に、何か紋章の様なものが刻まれているのに気付いた。家紋か何かだろうか。改めてみれば、勇者の弓の柄にも、同じ紋が施されている。こちらは弓が作られたよりも、大分新しいものの様だった。だが、こんな家紋を持つ貴族は、グランベルにはない。
 いずれの王家のものだろうか。質素ではあるが、名も無い一貴族のものというには立派なものだ。やがて、男はその紋に見覚えがあるのに気付いた。
 彼の祖国にごく近い―――もっとも、広い国内であるから、ヴェルトマ−からは大分離れてはいるが―――国の、王家の紋だった。

 ヴェルダン王国。


 彼は、その弓を上の者へ届ける事にした。
 一国の王家の紋の入った弓ともなれば、やはりおろそかに扱う訳にもいくまい。『勇者の弓』と共に、処断を任せるべきだろう。
 やがて、彼は踵を返し、用のなくなった戦場を後にした。

 脳裏に褐色の瞳をもった死神の姿がちらついて、離れなかった。


 ザハ・クルハ。ヴェルダンで主人の帰りを待っていた青年の元へその知らせが届けられたのは、ヴェルトマ−兵である一青年により二つの弓が発見されて、少し経ってからの事であった。


「グランベルからの使節?」
 仕事の合間、自室で休息をとっていた時の事。
 突然持ち込まれた報告に、ザハは怪訝な顔をした。

 一体、彼等はこの忙しい時期に何の用だと言うのだろうか。ただでさえ彼等のよこす「役人」達は民の間では評判もよくなく、頻繁に騒ぎが起きている。短期間しかとどまる事のない使者ならそんな騒ぎを起こす事もないだろうが、できれば下らない用事は控えてほしいものだ‥‥‥そんな事を、つい考えてしまう。
 もっとも、彼等の要求を下らないと思っても、それを口に出す事は今のザハ達には出来なかった。
 彼等がその場にいないうちは不快な気分を隠しもしなかった。短く「すぐに行く」とだけ応え、小さな舌打ちを残して、彼は自室を後にした。
 
 謁見の間には、既に城内の者が集まっていた。
 遅れた事を簡単に詫び、ザハは空の王座の傍らに立った。やがて、使者が供を引き連れて彼等の前に現れる。
「‥‥‥これは、遠方よりわざわざ足を運ばれるとは、一体何事でしょうか?」
 表情を隠し、慇懃な言葉で応対する。もう慣れた事とはいえ、気分の良いものではない。
 その働きを認めてくれる主が側に居たのであれば、少しは報われた気にもなれたのだろうが、生憎と彼の主人は王座を空にしたままだ。

 政務を司る者としては仕方ない事だが、老齢の文官達が年若い彼に外交を任せっきりになるのも、わからないではなかった。全てがそうではないとはいえ、やはり大方を占めている、いつもどこか傲慢な態度をとる隣国よりの使者には皆不快感を隠しきれずにいる。それが過去の自分達の所業の結果だと思うと、更に、苛立ちが増していく。
 使いの男は、挨拶をすませると、やがて淡々と話し始めた。

「先日、王都で反逆者の処刑が行われました。」
「処刑?」
「シアルフィ公子の、です。彼等が王家の転覆を計っていたと言うのは、既に御承知のはずですが?」
「‥‥‥‥‥。」

 

 使節はその後、処刑の状況と罪状とを、幾つか簡単に並べ立てた。その中でも、イザーク王子を匿った事などは謀反の証拠として強調されたが、ザハは怪訝に思わざるをえなかった。シグルドが、幼い王子と、その叔母にあたる姫を保護した事は、実際、知っている。
 しかし、あの青年なら助けようとするに決まっているではないか。そう思えてならなかった。
 馬鹿げている、人が好すぎる、とは思ったものの、彼のとった行動は好意的に見られるものだった。だが、それを彼の国の人々は「叛意」とみるのだろうか。シグルド公子のひととなりを知っているのなら、何故そんなものの見方をするのだろうか。

 ‥‥‥そもそも、果たしてなされるべき尋問は行われたのであろうか。
 
 おかしい。

 元々、グランベルの建て前と、ザハの元に届くシグルド軍内部からの話にはずれがあり、それは今にいたるまで、時を経る毎に大きくなっていたのであった。果たして、彼等の為す事、それらは正当な順序をとっているだろうか。
 大体、彼が真に叛意を抱いていたとすれば、ザハに度々知らせを寄越した男が―――ジャムカが、長々と軍に留まっていた筈がない。彼が今までに送った、最後の手紙に記されていた短い言葉が、何よりザハにシグルドの無実を信じさせた。

『あの男は 潔白だ』


 ‥‥‥冤罪か。
 それも、最悪の形の。

 醜悪な響きの言葉を、ザハは考えた。手段それ自体を非難する気は無い。彼自身とて、それが国の為になるというのなら、ためらいも無くそれを為すだろう。
 だが、かつては人望もあった、あれほど清廉で忠義なる騎士をその犠牲にし、それが受け入れられてしまうとすれば、グランベルの法とはそもそも一体何なのだろうか。誰も非難するもののない、それはよほど正当な理由があるというのだろうか。それとも、権力者がよほど醜悪な策を弄した結果なのか。
 
 ―――ともあれ、シグルドの死も一つの大事だが、ザハにとってはその後の内容こそ、気になって仕方がなかった。
 もし、彼の死が冤罪の結果であるなら。
 彼の潔白を知っていた、彼の仲間達は一体どうなったのだろう?

 ‥‥‥ジャムカは、どうなった?


「‥‥‥それで、今回こちらに参られたのは、一体どんな用向きで?」

 努めて平静に、ザハは訪ねた。ジャムカがシグルド軍に参戦した事は、グランベルの方には知らせていない。‥‥‥すくなくとも、表向きはそういう事になっている。
 知られてはいるだろうが、国を継ぐはずの王子が、おそらく濡れ衣であるとは言え「反逆者」と呼ばれる者の側に居ると公に認めるのは都合が悪かった。加えていえば、あまりジャムカの行動に口出しされたくなかったからでもある。少なくとも、おおっぴらな形で難癖をつけられることは避ける事ができるだろう。その為に、ザハはこれまで、グランベルの為す事を、不満を抑えて受け入れてきたのだから。
 だが、「反逆者の処刑」と聞いて、抑え切れない不安が胸をよぎる。
 
 ‥‥‥こいつらは、一体何をしに来た?


 ザハと話している男のすぐ後ろに控えていた者達が前に進み出たかと思うと、何かを差し出した。
 二つの、弓。

 一つはザハが未だかつて目にした事のないものであったが、その優雅な外観からすると、おそらくユンングヴィの騎士達の証だという『勇者の弓』だろう。話半分には、聞いていた。
 だが、もう一つは。

 弦を切られた、無惨な褐色の弓の残骸は―――


「‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥出奔中であったと言うジャムカ王子が、どう言う訳か彼の軍に同行なさっていたらしい。‥‥‥しかし、バーハラの一件で下された命は『シグルドとその一味を、残らず処刑する事』。ヴェルトマ−の当主、アルヴィス卿が忠実にそれを実行した所、王子らしき方もどうやら倒れた者達の中に含まれていたようだ。兵士の一人が、紋の刻まれたこの弓を拾って参りました故。犠牲も多い事で、その消息は明らかではありませんが、おそらく‥‥‥。」
 妙に白々しい声で、男は告げた。


 周囲がどよめいた。
 声をあげる者も、いた。


 ―――殺した、だと?


 周りの反応を気にする様子もなく、ザハに向かって、使いの男は淡々と言葉を述べた。
「『不慮の事故』、とでも言う所ですか。知っての事か、それとも知らずにしていたかは存じませんが、反逆者に力を貸していたと言うのが、そもそもの非運の始まり‥‥‥。罪は罪、ですが、仮にも一国の主と言う身分を先に置かれていた方だ。遺体の行方は知れないが、せめて、遺品をこちらに運んで参りました。どうぞ、お引き取りを。」


 死んだ?


 ‥‥‥言葉を失くしたザハの様子などは気にも掛けずに、使者は、騒ぐ周囲の感情を逆撫でする様な言葉を放った。
「一介の戦死者、それも反逆に加担した者の所有物など、本来であれば回収は不可能です。感謝して頂きたいものですな。こんな事は、謀反人にたいする処遇ではないのだから。」

 感謝?
 あまりにも場違いな言葉を、ザハは理解する事などできなかった。

 ‥‥‥こいつら、何を言ってるんだ?


 軍に居た者すら把握していないとは、やはり『処刑』とやらの前にはろくな裁判も行われていないに違いない。彼等は、自分達の所業を知られない為に、シグルドに付き従ったものを皆殺しにしたというのか。彼等の国では、そんなやり方が認められるのか。
 ‥‥‥そんな非道が、彼等の法なのか。

 ジャムカをその手にかけたと言うのは、彼等は完全にヴェルダンを支配下に置くつもりで、わざとそれを行ったのかもしれない。‥‥‥それとも、辺境の小国の太子など、取るに足らぬ存在だったからだろうか?
 無実の者を有罪と決めつけ殺害しただけでは飽き足りず、無関係の者までその手にかけたと言うのだろうか。

 ‥‥‥奴が、お前達に一体何をした。

 俺達を馬鹿にするだけでは飽き足りず、今また国王となる者を―――国の柱を奪ったと言うのか?
 ‥‥‥俺が生涯唯一人と決めた主を、その男すら奪ったと‥‥‥そう言うのか?


 ザハの手は、彼の胴衣の帯の上にあった。そこには、常に護身のために帯びている短剣がある。

 周囲から次々と上がる非難の声も、煩わしそうにそれに答える使者の声も、彼の耳には意味を持った言葉として届いてこなかった。ただ、内から沸き上がる感情が彼の手に余り、それをどうすればいいのかわからずいる内に、身体が勝手に動いていた。
 手が、すでに短剣の柄にかかっていた。彼は短剣の扱いに関しては、かなり秀でている。抜けば、目の前の使者の命など、一瞬で終わるだろう。
 柄を握る手に力を込めた。

 ‥‥‥しかし。

『―――ザハ、後は頼む。』
 それは、「主人」の残した、最後の言葉だから。

 彼は、短剣から手を放した。


「‥‥‥もういい、黙れ!」

 ザハが怒鳴った。非難する者も、それを聞き流していた使者も、驚いた様に彼をみた。
 喧噪を一瞬で鎮めると、ザハは使者達に向かって、静かに口を開いた。


「‥‥‥用向きの方、了解した。お手を煩わせて申し訳ない。遠方よりわざわざ参られた事‥‥‥感謝致します。」

 ‥‥‥また、声を上げたものがいた。それに続いて、使者達を除いた、その場に居る者全ての視線が、弾かれた様に彼の方をむいた。
 誰もが彼に何か言おうとする、その声を無言で遮って、ザハは使者を丁重に送りだした。


 
 
 

Continued on Page 2. *31章は2ページあります。



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