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一瞬、質問の意味を計りかねて、青年の目は点になった。
その様子をどう勘違いしたものか、彼の天使は頬をぷうっとふくらませて抗議する。
「もうっ、オスカー様! ちゃんと聞いてらっしゃいますか?」
    あ、ああ。ちゃんと聞いてるぜ。…にしたって、一体、どういう意味なんだ、それは?」
「だから、言葉通りの意味ですってば!」
ますます不機嫌になりながら、少女はぐっと握り拳を作りそうな勢いで、抱きしめる青年を見上げる。
「もし、私がオスカー様じゃない誰かを好きで、オスカー様の名前も知らなかったら……そういうところで生きる運命の『私』がいたら、オスカー様はどうしますか?」
「それは、お嬢ちゃんは俺と離れたいってことか?」
「も〜〜〜! だから、どうしてそうなるんですかぁ! たとえば、の話です」
「…あぁ、なるほど……」
ようやく得心いったという顔で、青年は肯く。そして、恋人の額に軽く唇を触れさせてから、悪戯を咎めるような目で腕の中の恋人に囁く。
「どんな突拍子もないことを言い出すかと思えば……哀しいお話が好きだな、お嬢ちゃんは」
「突拍子もないこと、じゃないですっ!」
じわり。
翡翠の瞳が潤む。目の端に滲む涙を見た青年は流石にぎょっとするが、そんな恋人の狼狽などおかまいなしに少女はぷいっと彼に背を向けてしまう。
「だって……もし、私が女王候補に選ばれなかったら……もし、『今』生まれなかったら……ここにはいなかったでしょう? そうしたら、きっと聖地のことも守護聖様のことも全然気にもとめずに、名前も知らない誰かを好きになって、その人の側にいたかもしれな……」
言葉は、最後まで言うことは許されなかった。背後から身体を乗り出した青年の唇によって遮られてしまったから。
「アンジェリーク…まったく、馬鹿なことを考えるんだな、君は」
少女に自らの温もりを分け与えるように優しく抱きしめながら、青年はその髪に顔を埋める。
「たとえ、君がどこにいて、誰を愛していても……最後に君の横にいる男は俺だぜ?」
「……」
「おいおい、信用していないな、その目は……」
身体を反転させて、尚も少女は青年を睨む。その、あまりといえばあまりにも迫力のない(むしろ、可愛いとしか思えない)怒った表情を受け止め、青年は彼女を安心させるように微笑む。
「この恋は、宇宙の歴史さえも変えた恋だぜ? どんな『もしも』が割り込んだって、俺はいつだってお嬢ちゃんのものさ」
「……本当に?」
「ああ。なんなら、試してみるか? このサクリアで、俺の記憶を封じ、心さえも封じ……君の姿を草原に咲く一輪の花に変えて? それでも、俺はいずれ君を見つけだし、君に惹かれてこの腕に抱くだろう」
何の躊躇いもない、そんな自信に満ちあふれた表情で言われたら、聞いている方も何となく納得してしまうだろう。途端に満面の笑顔で抱きついてくる少女を受け止めながら、青年は声をたてて笑った。
「嬉しい、オスカー様。大好き!」
「ククッ……まったく、お嬢ちゃんときたら本当に可愛いな…… こんな可愛い君を、俺が見失うはずはないだろう?」
まんざらでもなさそうに嬉しそうに笑うと、青年は彼の可愛い恋人を胸に抱き寄せた。
「だから、もうそんな哀しい顔をしないでくれよ。俺は、ずっと……味方だぜ」
「はい、オスカー様」


朝の陽差しに金の髪が優しく照らし出される。
再び眠りに落ちてしまった少女の肩にケットをかけてやりながら、青年は聞くもののいない呟きをそっと吐き出した。


「どんな『もしも』が割り込んでも……かまわないぜ。俺は、ずっと君を抱いて行こう」


そっと恋人の髪に唇を寄せると、青年も再び目を閉じた。





1999.5.4



妹(ファイアー三姉妹三女カイルさん)をオスアンにはめる計画を発動している極道な姉=優樹が、妹にオスアンを描かせるために(?)送りつけた超短編。C&Aの「if」をイメージしております。色々打ち合わせをしたところ、甘々で歯が浮いて砂を吐いてあまつさえその砂で人口ビーチが出来るくらいの甘い創作(待て!そこまで言ってないぞ!)がいいということだったので、珍しくイチャイチャいている「だけ」の創作‥‥‥
あああ、逃げないで、逃げないでカイルさ〜〜〜〜〜ん!!







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